8. Sister
1.
翌日、ロランは俺達の前に姿を現さなかった。
騎士団長のマルクスに発破をかけられて城を後にした俺達は、カザーブ村までの道案内を用意したという言葉を受けて、冒険者の組合所に顔を出した。
「やぁ、みなさん!お早うございます!」
やたらハキハキした挨拶を投げてきたのは、例の人の良さそうな剣士だ。
「もしかして、道案内って、あんたらかよ」
「そうよ。カザーブまで案内をするように頼まれたの。どうぞ、よろしくね」
スティアが、俺に片目を閉じてみせた。
やれやれ、こういうことか。まぁ、顔見知りって言い訳は立つけどな、ロランさんよぉ。
ウチの連中の方を窺うと、シェラは『ああこの前の』と思い出したような顔をして、リィナは『ふぅ~ん?』みたいな視線を俺にくれた。スティアのウィンクを見てやがったな。
マグナは——なんだか、らしくもなく、朝からずっとボーっとしていた。
「我々では頼りないかも知れませんが、案内させてもうらうことになりました。どうか、よろしくお願いします!」
「え?ああ、はい、こちらこそ」
何かの宣誓みたいな、人のいい剣士のむやみにデカい声にも、どこか上の空だ。
まさかとは思うが、ロランのバカに夜討ち朝駆けで迫られてたんじゃねぇだろうな。
「おい、大丈夫か?もしかして、寝不足かよ」
俺の耳打ちにも、反応が遅れた。
「……へ?あ、ううん。ごめん、大丈夫。ちょっと疲れちゃって」
疲れたってどういうことだよ。
「……ロランの相手をしたせいか?」
「うん、そう」
あっさり頷かれて、多分、俺は硬直したと思う。
「晩餐の後もあたしの部屋に来てベラベラ喋るし、今朝だって出掛けにわざわざ顔を見せて、またなんだかんだ喋っていったのよ。ホント、あれで王様なんて務まるのかしら。悪い人じゃないんだけど、話相手としては疲れるわ——って、あんた、なんか勘違いしてない?」
「へっ!?いや、なにも?あぁ、そうだなぁ、あいつと話してると疲れるよな。うん、分かる分かる」
「あんたも話したの?ああ、あたしが追い出した後か——って、大体、あんたねぇ、晩餐会の間中、あたしが助けてって何回もあんたの方見て、目も合ったのに、なんで無視したのよ!」
2.
ああ、なんだ。あれは俺を睨んでたんじゃなくて、助け舟が欲しかったのか。もうちょい分かり易い目つきをしろよ。
俺は、思わず頬を緩めてほっと——した訳じゃなくて、なんていうか。
まぁ、あれだ。マグナが誰か男とそういうコトをいたしてる場面なんて、ちょっと想像つかねぇだろ?そういうアレだよ、コレは。
「あら、ロランのお話?」
スティアが、俺とマグナを覗き込んできた。
「ええ、まぁ。えっと……」
「スティアよ、マグナちゃん」
ちゃん付けされて、マグナはカチンときた顔をした。
「スティア……『さん』も、ロランとお知り合いなんですか?」
さん、の前には、おば、がつくことを言外にちらつかせたマグナの挑発を、スティアはさらりと無視してみせた。
「そうね。お会いしたなら分かると思うけど、あの方、ほら、ああいう人だから」
「……よく分かります」
「マグナちゃん、とっても『可愛らしい』から、気をつけてね。あの方、歳とか関係ないから。見境ないのよ」
「……そうですか?そうでもないと思いますけど」
おや?
「あらあら、ダメよ、騙されちゃ。あの方、ホントに口だけはお上手なんだから。マグナちゃんは、まだ若いから、そういうのはちょっと分からないかな」
「バカにしないで。本気で言ってるか、そうじゃないかくらいは分かるわよ!」
なんでお前が、あのアホの弁護をしてるんだ。
「あらぁ。もしかして、本気で何か言われちゃった?あの方ときたら、まったくもう——」
「別に!なにも言われてないわよ!大体、そんなこと、あんたには関係ないでしょっ!?ほら、急いで取り戻せって言われてるんだから、行くわよ!全員、さっさと表に出る!」
地団太を踏むように、マグナはドカドカと組合所を後にした。
「ふふ、可愛いわねぇ——あら、そんなに心配そうな顔しなくても、大丈夫よ。別にとって食べたりしないから」
スティアは、俺に流し目をくれる。
「心配性なお兄さんって心境かしら。なんだか、思ってたより楽しくなりそうだわ。改めて、よろしくね」
「あ、ああ」
俺はぎこちなく頷き返した。
まったく、言い得て妙だよ。願わくば、心配性のお兄さんに、これ以上の厄介事を持ち込まないで欲しいね。
3.
ひとまず俺達が目指しているカザーブという村は、どうやらとんでもない山奥にあるらしい。途中、知っていなければ気付かないような道も通るので、案内なんてのが必要だそうだ。
ロマリアの冒険者の実力では、単独で赴くのは自殺行為に等しく、普通は隊商の護衛役として、いくつかのパーティが合同で向かうのだという。
尤も、スティア達は結成してまだ間も無いので、護衛を務めたことはないそうだが。それじゃ意味ねぇじゃん。道知らねぇだろうが。ロランのアホが、これじゃ単なるいやがらせじゃねぇか。
まぁ、仲間のひとりの商人が、冒険者になる前に何回か訪れたという話なので、せいぜい遭難しないことだけでもお願いしたいね。
なにしろこいつらときたら、戦闘ではさっぱり役に立たねぇからな。
魔物は、かなり手強くなっていた。中でも群れで襲ってくる腐りかけた狼の動く屍体と、中身ががらんどうの鎧の化物が厄介だ。特に鎧の方は、なんらかの魔力の影響で動いている所為なのか、魔法の効きが悪くてやり難いったらありゃしねぇ。
ヘタに前に出られると、逆に庇ったりなんだりの手間が増えるだけなので、基本的にスティア達には大人しく見物してもらっている。こいつらでも倒せそうな魔物を選んで、タマに回してやる程度のことはするけどな。
総勢八人もいるのに、僧侶が一人しかいないので、誰かが負傷した時に回復できなくなっては大変だ。なんぞと、もっともらしい理由をつけて、シェラも観戦組に入ってもらってる。
以前よりは幾分マシになって、隅っこでガタガタ震えているだけではなく、ある程度自分で逃げ惑うことを憶えたが、却って危なっかしい場面も多いからな。
それに、アリアハンの冒険者様が、戦闘中にホイミも唱えられないってんじゃ、ちょっとコケンに関わるだろ。見物してもらっておくに越したことはない。
わざと獲物をこちらに追い込んで、俺とマグナに経験を積ませようとするくらい余裕のあるリィナがいれば、いくら魔物が強くなったとはいえ、そうそう重傷までは負うこともねぇしな。
4.
そんな訳で、自然と観戦組との付き合いが増えたシェラに、身の程知らずにも粉をかけてやがんのが、人のいい剣士と小太りの商人だ。
ちなみに、剣士の方はアルブスという名前で、皆にはアルと呼ばれている。
商人はルールスと言うそうだ。まぁ、野郎の名前なんて、どうでもいいんだが。
「オラの名前には、『いなかもの』って意味があるだで、いつも名乗るのが恥ずかしいだ」
と小太りのルールスはのたまいやがった。お前、そのまんまじゃねぇか。
残る野郎の武闘家ブルブスは、リィナと一緒にいる姿が多く目についた。同じ武闘家であるリィナに、色々教わろうという腹積もりらしい。
レベルが違い過ぎて、参考にはならねぇと思うがな。無口なこいつは、リィナに出された無茶な課題を黙々とこなして、タマにぶっ倒れたりしてたので、根性だけはあるようだ。このまま続ければ、案外早い時期に使い物になるかも知れねぇ。
こいつはこいつで、名前に「どもり野郎」という意味があるらしく、時おり口を開けば律儀にどもってみせた。
アルブスにしても「明るい」という由来があるそうで、ホント、こいつらの親の先見の明に感心するよ。
マグナは、どうにもスティアと反りが合わないようだった。
というか、事ある毎に俺にちょっかいをかけてくるスティアが、からかって楽しんでいるフシがある。
5.
「ねぇ、ヴァイス、こっちに来て」
日暮れ時に野営の準備をしていると、妙になまめかしい口調でスティアが俺を呼んだりするのだ。
ジロリとこちらを見遣るマグナに、「私達は薪を拾ってくるわ。ああ、先にリーダーに報告するべきだったわね。ごめんなさい、マグナちゃん」とか、含み笑いをしながら言っちゃうんだ、これが。
「あ、そう。勝手に行けば」
マグナの声が、また怖ろしく冷たいんだわ。
で、俺の手を引いて森に分け入ったと見せかけて、スティアは木の陰からマグナの様子を窺ったりする訳だ。
「ほら、あんなに気のない素振りをしたクセに、そわそわしちゃって。気にしてる気にしてる。ああ、マグナちゃんったら、ホントに可愛いわ」
とても嬉しそうに言う。
「また、そんな顔して。可愛い妹がイジワルされるのが、そんなに嫌?」
「そんなんじゃねぇけど」
「だって、マグナちゃんったら、苛めた時の反応が、もう精一杯無理してて、ホントに可愛いんですもの」
そうか、身悶えするほど気に入ってるのか。まぁ、嫌われるよりは結構なことだ。
「あなたの目には、私はヒドい女に映ってるのかしら」
「いや、いい女に映ってるよ」
「ふふ、気持ちが篭もってなくても嬉しいわ」
敵わねぇな。
「ねぇ、薪拾いなんて、ちょっとくらい遅れても大丈夫よ」
マグナ達とは全然違う、熟した豊満な肢体を俺にピッタリくっつけて、木の幹に押し付けたりするのだ。
それでまぁ、なんというか、ほんの少しだけいかがわしい事とかして、いや、ホントにほんのちょっとだけだぞ。服もはだけてないし、却って欲求不満になるというか、そもそも俺は野外はあんまり、いやそのなんだ。
俺が超人的な精神力を発揮して——精神力が重要な魔法使いの経験も伊達じゃないね——そこそこで切り上げ、マジメに薪を拾って野営地に戻る、みたいなことが、もう何度もある訳だった。
戻ったら戻ったで、マグナはブスーっとしてるし、ブルブスはリィナを背中に乗っけて腕立て伏せをしていたらしいが見事に潰れてるし、アルとルールスは料理の仕度をするシェラになにくれと構ってるしで、なんだかやたら賑やかな一行なのだった。
魔物もそこそこ強くて、道も険しい割りに、緊張感がまるでない。
ヘンな意味での緊張感なら、俺の周囲に漂ってるけどな。
6.
「肝試しをしない?」
日数自体は結構かかった筈なんだが、ワイワイガヤガヤやってる内に、いつの間にやらカザーブの村に辿り着いていた。何はともあれ、道に迷わなくて良かったぜ。
場所は宿屋の食堂。全員で食卓を囲んで晩飯を食い終わった頃合に、俺の隣りに座ったスティアが、唐突にそんな子供っぽいことを提案した。
「さっき、宿の人に聞いたのよ。ここの墓地……出るんですって」
スティアはふざけて、おどろおどろしい表情を作ってみせた。
「はぁ?何言ってんの?」
俺の正面でマグナが顔を顰めると、スティアはにんまりと笑う。
「あらら、怖いの、マグナちゃん?ひょっとして、お化けとか苦手だった?」
「は?バカ言わないでよ。なんで、あたしがお化けなんか。じゃなくて、そんなことをする為に、ここまで来たんじゃないでしょ?まったく、何考えてんのよ」
「あらぁ、意外だわ~。ロランのお願いを、マグナちゃんがそこまで真剣に考えてくれてたなんて。マグナちゃんは照れ屋さんだもの、きっと何も言わないでしょうから、後で私から伝えておくわね。あの方、きっとお喜びになるわよ~」
「ばっ……いい加減にしてよっ!!そんなんじゃないんだったらっ!!」
「あらあら、じゃあ、やっぱりお化けが怖いのね」
「怖くないっ!!」
「そんなにムキにならなくてもいいのよ。却ってみんなに、怪しまれちゃうんだから。ねぇ?」
俺に振んな。
「……あんたの口車なんかに、乗らないんだから」
「そうね、それがいいわ。ごめんね、マグナちゃん。誰にだって、怖いものはあるわよね」
「だから、怖くないって言ってるでしょっ!?」
「じゃあ、やってみる?」
「……」
マグナは買い言葉を発しそうになった口を、力づくで強引に閉じた。意地でもスティアの思い通りになるまいと、唇を尖らせてそっぽを向く。
いっつも、俺がこの二人の傍らで脂汗流してるんですけど。他のお前ら全員、他人事みたいな顔してないで、タマには助けろよ。
ダメか。リィナなんか、なんのつもりか目を輝かせて二人のやり取りを見守ってるもんな。
7.
「は~い、やりたい人~」
スティアは、他の連中に挙手を求めた。
「やるやるー」
真っ先に手を上げたのがリィナだ。
空気を読まないこいつのせいで、他のヤツらもなんとなく手を上げる。シェラは、リィナに腕を掴まれて、無理矢理上げさせられていたが。
「ほら、ヴァイスも」
スティアも、俺の手を握って持ち上げた。しかも、指の間に指を絡ませた恋人同士がするような握り方だ。うは、怖くて正面見れねぇよ。
「あらぁ、マグナちゃん以外は、みんな賛成みたいねぇ」
「……勝手にやれば。あたしはやらないから」
俺は下を向いてるので表情を窺えないが、とんでもなく不機嫌な口振りだ。
「ダメよ、そんな勝手なこと言っちゃ。多数決で決まった事じゃない」
「いつ多数決になったのよっ!!」
バン。
「あ、みんな、手を下ろしていいわよ」
俺の手は、下ろした後も、机の上で握られたままなんですが。
「だって、皆やりたいって言ってるのに、リーダーだけが反対するなんて、それってどうなのかしら。それに、マグナちゃんがいないと、ひとり余っちゃうわよ」
「はぁ?」
「だって、せっかく、男と女がちょうど四人づつなんですもの。ペアを組んで行くに決まってるじゃない」
言われてみれば、そうだな。とか納得する俺。
「それに、私達はここまでしかお付き合いできないけど、マグナちゃん達には、これから大変な任務が待ってるんじゃない。最後に少しくらい、羽を伸ばして仲間と楽しく過ごして、緊張をほぐす時間を作ってあげるのも、リーダーとしての役割なんじゃないかしら」
ここから先は、道を知ってる訳でなし、スティア達は単なるお荷物以外の何者でもなくなってしまうので、何日か後に来る隊商と一緒に帰る予定なのだ。
一転して、スティアはしんみりとした口調になったりするのだった。
「それにね、なんだか嫌われちゃったみたいだけど、私はマグナちゃんのこと大好きよ。私達にも、あなた達とのいい思い出を残してもらえないかしら。ね、お願い」
「……分かったわよ。やればいいんでしょ、やれば」
きゅっと握る手に力が込められたのでそちらを向くと、スティアが俯いて、してやったりみたいな笑みを浮かべていた。
やれやれ、俺を巻き込むなよ。という内心を忖度した訳でもないんだろうが、スティアはやっと俺の手を離した。
8.
「ありがとう、マグナちゃん。じゃあ、リーダーの許可も出たことだし、ペアを決めましょうか」
いつ作ったのやら、隠しを探ったスティアの両手には、紙で作られたクジが握られていた。
マメな女だな。
「はい、ヴァイスから」
そう言って、右手のクジを差し出す。
「ちょっと待って!」
「ん?マグナちゃん、どうかした?」
「言いだしっぺが作ったクジなんて、不正の疑いがあるわ。ちょっと見せなさい」
スティアは、慌ててクジを後ろ手に隠した。不正アリアリかよ。
「あらあら、マグナちゃんったら、疑り深いわねぇ。それじゃあ、どうするの?」
「ヴァイス。紙とペンを借りてきなさい」
有無を言わさぬ命令口調だ。はいはい、仰せのままに。
「あんたは、ここにいなさい」
再び俺の手を握って、一緒に立ち上がったスティアを、マグナはギロリと睨みつけた。ふぅ、とかワザとらしい溜め息をついて、大人しく着席するスティア。
帳場で紙とペンを借りて戻ると、マグナは縦に四本線を引き、体で隠しながらいくつか横棒を加えた。なるほど、アミダか。
「女はこっち。男はそっち。好きなところに名前を書きなさい。作った本人だから、あたしは最後でいいわ」
名前が記入できるように両端だけ折り返して、横棒が引かれた真ん中の部分は伏せて見えないようにしてある。まぁ、これなら公平かな。
結局、スティアはアルと組まされて、つまらなそうな顔を隠さなかった。あの、その人、一応あんた方のリーダーさんなんですが。
上手くいったのは、リィナとブルブスの武闘家ペアくらいか。小太りルールスと不機嫌絶頂のマグナのペアは、一体どんなことになるのやら、ある意味覗き見たいような気がするが。
俺は、シェラと組むことになった。ちょうど良かったかな。
ついさっきアミダに名前を書く時も、はじめて会った頃みたいにおどおどしてたし、二、三日前から少し様子がおかしいのが気になっていた。
9.
墓地の入り口は教会の中だが、さすがに肝試しなんぞをする為に、こんな遅くにどやどやお邪魔する訳にもいかない。そこで俺達は、勝手に柵を乗り越えて入ることにした。
「は~い。じゃあ、ぐる~っと一周してきてね~」
あからさまにやる気を無くしているスティアのなげやりな言葉に促されて、一番手の武闘家ペアが楽々と柵を越えた。
しばらくして、ブルブスの悲鳴が一度だけ小さく聞こえると、シェラはビクッと震えて俺の服を強く掴んだ。
やがて、ブルブスを引き摺るようにして戻ってきたリィナは、怖がるどころか逆に嬉しそうだった。
「いたいた!いたよ、幽霊!あのね——」
「そこまで!種明かししちゃったら、面白くないでしょ?」
「あ、そっか」
唇にスティアの人差し指を突きつけられて、リィナは指で頭を掻いた。
「ゆ、幽霊が相手でも、し、師匠は、や、やっぱり凄いッス」
幾分は蒼褪めた顔をしたブルブスが、そんな事をどもっていた。また何か、リィナがやらかしやがったな。
「そっかな?ん~、鉄の爪かぁ。あった方がいいのかなぁ。でも、エモノは、あんまり好きじゃないんだよね」
「し、師匠には、ひ、必要ないッスよ」
「やっぱり?」
えへへ~、とか照れ笑いをするリィナ。また軽い師匠だな、おい。
二番手は、スティアとアルだった。ほどなく戻ってきたスティアはあらぬ方を向いていて、アルは気まずそうな愛想笑いを浮かべていた。ずいぶん早かったが、こいつら、ちゃんと回ってきたんだろうな?
次が、俺とシェラだ。
シェラは柵を越える前から、はっきりと分かるくらい震えていた。
「そんなに怖がってもらえるなんて、発案者冥利につきるけどね。大丈夫、シェラちゃん?」
「は、はい。だ、大丈夫です」
全然、大丈夫じゃなさそうだ。
スティアは、シェラの頭を抱いて、自分の胸に埋めてやった。羨ましい。
「心配しないで。怖いお化けが出ても、頼りになるヴァイスお兄さんがやっつけてくれるから。ね?」
シェラの体をぐいと俺に押しつけて、片目を閉じてみせる。
「さ、いってらっしゃい」
そうして、柵を越える時にシェラがコケたりしながら、俺達は墓地に足を踏み入れたのだった。
10.
「怖かったら、俺にしがみついてていいからな」
「は、はい」
言うまでもなくしがみついているシェラを連れて、俺はあいつらに声が届かない辺りまで歩くと、手近な植え込みの前を手で示した。
「ちょっと、座るか」
「ふぇ?」
へっぴり腰で、泣きそうになっている。
さんざん道中で、動く鎧やら腐った狼だの、よっぽど恐ろしいものを目の当たりにしてきてるのに、幽霊くらいでここまで怖いモンなのかね。まぁ、シェラは魔物と出くわした時も、軒並み怖がってるから仕方ないか。
実際に幽霊に出てこられて、卒倒でもされたら困るので、最初から真面目に一周する気はなかった。それよりも、ちょっと話をしておきたい。
「ほら」
先に座って隣りの土を叩くと、シェラはおずおずと腰を下ろした。
「大丈夫だよ。魔物に比べりゃ、幽霊なんてヘでもねぇ。もし出てきやがったら、俺が魔法で追い払ってやるよ」
俺はシェラの肩に手を回して、ぎゅっと抱き寄せた。
それで少しは安心してくれたのか、シェラは俺を見上げて健気に微笑んだ。
まー、可愛らしいこと。
でも、その瞳の奥には、やっぱりなんだか淋しげな色が浮かんでいるのを確認する。
さて、どうやって切り出したモンかな。
「シェラはさ、誰か好きなヤツっているのか?」
「え?」
どうにも上手い導入を思いつかずに、俺はそんなことを尋ねた。
「あ、はい。今は、マグナさんが好きです」
お、マジか。でも、なんかあっさりし過ぎてんな。
「あと、もちろんリィナさんも。私、ひとりっ子でしたから、お姉さんができたみたいで嬉しいです」
月明りの下で、今日一番の笑顔を浮かべる。
って、おい、ちょっと待て、お前、ひとりっ子だったのかよ。てことは、長男だろ?そりゃ、余計に苦労しただろうなぁ。
長男ってのは、その家の様々な役割やら責任を押し付けられる。というか、それを負って当然だと、周り中から見做されるものだ。
俺は次男坊だからな。元々家を継ぐ人間じゃなかったから、ないがしろにされて多少は面白くない思いもしたが、面倒事を一手に引き受けて、黙々と愚直にコナしてくれた兄貴には、正直感謝している。
その長男にしてコレじゃあ、周りからの風当たりは、今まで俺が想像してた以上にキツかっただろうな。
11.
いやいや。俺が聞きたかったのは、そういうことじゃないんだった。
「あと……ヴァイスさんも」
シェラの話には、まだ続きがあった。
「お、俺もか。嬉しいね。最近、避けられてんのかと思ってたぜ」
「そんなこと!……その、私の方こそ、ご迷惑かなって」
「なんで?別にそんなことねぇよ」
俺のなんてことない返事に、シェラは膝を抱えてちょっと顔を伏せた。
「やっぱり、ヴァイスさんは優しいです」
「そうか?」
自分では、そんなつもりはないんだが。
「はじめて会った時……助けてくれた時、あの人達が私のことを教えても、『それがどうした』って言ってくれて……とっても嬉しかった」
ああ、そうだっけ。そんなことも言い……ましたか?
表情に出てしまったのだろう。シェラはくすりと笑った。
「何かの間違いだったとしても、凄く嬉しかった。そんな風に言ってもらったこと、ほとんどなかったですから。それに、ヴァイスさんはその後も、全然普通に接してくれて……だから……」
マズいね、どうも。こんなに感謝してくれてたのに、俺はその一言を覚えてもいなかったって訳ですよ。ヒドい奴だな、俺って。
「……頼りになる、お兄ちゃんみたいな感じです」
微笑むシェラの表情は、やっぱりどこか淋しげだ。
まぁ、そう言ってくれるのは嬉しいが、要するに俺もマグナもリィナも、家族みたいなモンってことだろ?
俺が聞きたかったのは、そういうことじゃねぇんだよなぁ。
「え~と、その、さ、シェラは、その、男と女の、どっちが好きなんだ?」
俺は、そんなことを口走ってしまったのだ——アホ丸出しに。
「えっ……」
シェラは深く俯いて、少しの間身を固めた。
「どうして……そんなこと聞くんですか?」
12.
「いや、ここんトコ、なんか様子がおかしかったからさ。連中——アルだのルールスだのと、何かあったのかな、と思ってさ」
「ああ、なんだ——別に何もないですよ。ただ、私は男だって、伝えただけです。いつも元々、隠してる訳じゃないですから」
ヒドくあっさりとした調子で、シェラは答えた。
そう、そこまでは想像がついていた。だから、恋愛対象としては女が好きなら、別にそれで愛想を尽かされたとしても、あまり傷つくこともないのかな、などと間の抜けたことを考えていたのだ、この時の俺は。
「あの人達は、いい人ですよ。急に怒鳴ったりぶったり、突然威張ってヘンなことしようとしたりはしませんでしたから。ほんの少し、態度が変わっただけです」
平然と言い切るシェラの言葉を耳にして、俺は何故だか背筋がうっすら寒くなるのを覚えた。
全く知らないこいつが、その言葉の奥にいた気がして。
「騙してたつもりはないんですけど、いきなり勘違いだって言われたら、やっぱり困っちゃいますよね。それが普通みたいです。仕方ないです」
「悪ぃ……ヘンなこと聞いたな」
「え?ぜんぜん平気ですよ?慣れてますから、こういうこと」
あまりにも普段通りの口振りに、阿呆な俺はシェラの言葉をほぼ額面通りに——そうだろうな。そんな風に納得してしまったのだ。
俺はせめて、シェラの表情を見ておくべきだった。だが、どうしようもない阿呆は足先の地面に視線を落とすばかりで、この時のシェラがどんな顔をしていたかは、結局分からずじまいだ。
「心配してくれてたんですね。嬉しいです」
逆に、気遣われちまった。
「私、まだ好きとか嫌いとか、よく分かりません」
阿呆がやっとそちらを向くと、シェラは星を見上げていた。
13.
「多分、本当に人を好きになったことって、まだないと思うんです。私がこんなだから、怖がってるっていうのもあるかも知れないですけど……だから、男の人と女の人、どっちを好きなのかも、まだ分からないです」
「そっか」
「でも、どちらかと言えば、女の人の方が好きかも知れません。話も合うし、柔らかくて暖かくて、一緒にいると安心します。男の人は、乱暴な人が多くて、ちょっと怖いです」
「そっか。そうだよな、バカが多いもんな」
「あ、でも、ヴァイスさんは別ですよ?ヴァイスさんみたいな人は、あんまりいません」
俺は、思わず笑った。
「やっぱ、俺って変わりモンなのかな」
「もちろん、そうですよ」
シェラは誉めるように断言してくれたが、この時の俺は、つまるところ他の奴らとなんら変わりがなかったのだ。ロランの言い草じゃないが、俺が気にしていたのはせいぜいシェラの服装くらいで、その下の裸のコイツなんて見ようともしていなかったのだから。
「私、ヴァイスさんと、それにマグナさん、リィナさん。みなさんと、ご一緒させていただけて、ほんとに良かったと思ってます。すごくすごく幸運だったなぁ、って思います」
「そっか。そいつは良かった」
「だから、もっと皆さんのお役に立たなきゃいけないのに……いつもご迷惑ばっかりかけて、本当に申し訳ないです」
「まぁ、出来ることからやってきゃいいさ。はじめの頃よりゃ、ずいぶんマシになってきたぜ」
なんておためごかしを、俺は言ったのだった。
「そうでしょうか。全然お力になれてない癖に、最近の私は、なんだか調子に乗ってました。このままじゃ、一緒に連れてってもらう資格なんか無いです」
一緒に行く資格、ね。
「もっともっとちゃんとしないと。こんな幽霊なんて、怖がってる場合じゃないですよね!」
シェラは、力を込めて立ち上がった。
「行きましょう、ヴァイスさん!一周すればいいんですよね?」
俺に、手を差し伸べる。
その手を握ったまま、俺達は墓地巡りを再開した。
勇ましく決意したはいいが、何歩も歩かない内に、やっぱりまた震えだしたシェラを哀れんで見逃してくれたのか、リィナが見たという幽霊は姿を現さなかった。
そして阿呆は、自分が振った話が、何も解決していない事にすら気付かないのだった。
14.
「見た見た?幽霊!?」
開始地点に戻ると、リィナが身を乗り出して尋ねてきた。
「いや、残念ながら、お目にかからなかったぜ」
応えながら、安堵で崩れそうになるシェラを支えてやる。
「あれー?ホントに?おかしいな、勝負しようと思ってぶったり蹴ったりしたから、怒って消えちゃったのかな?」
なんてことしてんだ、お前は。
「じゃあ、行きましょうか」
いよいよ、大トリのマグナ達の出番がやってきた。
マグナはにこやかに、ルールスに笑いかけていた。やると決めたからには、仏頂面をしたまんまじゃ申し訳ないと思ったんだろう。こいつ、意外に常識的で、人に気を遣ったりもするからな。俺にはほとんど遣わねぇけど。
普段は気の強いあいつが、ジツはお化けが苦手、みたいなノリも含めて、どんな展開になるものやら、この組の成り行きは楽しみにしていたのだが。
「別に、なんにも出なかったわよ」
マグナはケロリとした顔をして戻ってきた。なんだよ、つまんねぇ。スティアとのアレは、前フリじゃなかったのかよ。
「でも、夜の墓地って、やっぱり気持ち悪いだな」
ルールスの方が、よっぽど怖がってんじゃねぇか。
そんなこんなで、やや企画倒れの感が否めないまま、第一回合同肝試し大会はお開きとなった。
いや、別に二回目はねぇよ。
15.
部屋戻った俺がベッドに寝転がっていると、コンコンと扉がノックされた。
今回もひとり部屋だ。あの男連中と相部屋になったところで面白くもねぇし、ひとりでゆっくりくつろいだ方がマシだからな。
「開いてるよ」
声をかけると、薄く扉を開いてスティアが滑り込んできた。予想してたけどな。
「ごめんなさい、明日はもう出発なのに。まだ大丈夫?」
「ああ。問題ねぇよ」
スティアは着替えていなかった。色っぽい格好をしてくるかと思ってたのに、ちょっとアテが外れたな。
身を起こしてベッドのふちに腰掛けると、寄り添うように隣りに座って、スティアは俺の体に、なまめかしく手を這わせてきた。
「ねぇ……」
「ああ」
しばらく体をまさぐると、スティアはふふと含み笑いをして、俺の肩に顎を乗せた。
「やっぱり、そういう気にはならないのね。ロランに誘惑するように言われたんだけどな」
そうだろうな。
「あの方の思い通りになるのが、気に食わないの?でも、はっきり命じられた訳じゃないし、私だって、言われたからこうしてる訳でもないのよ?」
「そうかもな」
「……もう、そんなにあの子達が大事?」
「どうだろ。俺にも、よく分かんね」
本当に、何をカッコつけてるんだろうな、俺は。こんないい女をすぐ横にして。本気で自分でも分かんねぇよ。
「ま、私もちゃんと誘惑してたとは言えないけどね。マグナちゃんったら、あんまり可愛いんですもの。そっちに構い過ぎちゃったわ」
さばさばした口調で言って、スティアはちょっと伸びをした。
「それで、俺も助かったよ」
その分、脂汗を搾り取られたが。
「ふふ、なんだか不思議」
「なにが?」
「あなたみたいな人が、あのコ達に付き合ってるのが」
どういう意味だ、そりゃ。
16.
「だって、あのリィナってコは、ここに来るまでだけでも充分わかったわよ。あんなに凄いコですもの、何かやることがあるんでしょう」
「かもな。俺も知らねぇけど」
そう、俺はリィナのことも知らない。当たり前のような顔をして、気付いたら面子に加わっていたので、つい深く追求することもなかったのだが——
いや、違うな。俺達は、少なくとも俺は多分、追及することでリィナがふいと姿を眩ましてしまうことを怖れたのだ。そういう飄々としたこだわらなさ、みたいな部分が、あいつにはある。
実際、あいつが居なかったら、ここまでの旅はこれほど順調ではなかった筈だ。
いつか、はっきりさせる時が来るんだろうな。
「それに、シェラちゃん。あれも凄いコだわ。私ですら、しばらく気がつかなかったわよ」
てことは、今は気付いてんのか。
「彼女——って言うわね。彼女も、何か目的を持っているのは分かるわ。想像もつくしね」
「生まれ変わりの神殿のことを、何か知ってるのか!?」
勢い込んだ俺を、スティアは優しく押し返した。
「ごめんなさい。何のことだか分からないわ。でも、生まれ変わりってことは、やっぱりそうなのね」
「ああ。神殿については、俺達にもさっぱりだけどな。全然、見当もついてねぇよ」
「そう。私も人の話に気をつけておくわね。何か分かったら教えるから、また、会いに来てくれる?」
「ああ、そうだな。そうするよ」
お互いに、この場限りと承知した上での台詞。
「それから、マグナちゃん。あのコに関しては、何も言うことないわよね。なんたって、勇者様ですもの」
「お前……」
「安心して。ウチの連中は、何も知らないわ。言うつもりもないしね。知ってるのは、私とロランだけよ」
ロランとの関係や、それに関係があるだろう、冒険者なんて職業に就いた理由。聞こうと思っていたことはいくつかあるが、今この場で出す話題じゃない気がした。
まぁ、縁があれば、いつか聞く機会もあるだろうさ。
17.
「マグナちゃんは、マジメな子ね。さんざん苛めちゃったけど、私はあのコが好きよ。ちょっとイジワルな気分になったのは、あなたが悪いんだから」
「俺のせいかよ」
「そうよぉ。だって、あなたったら、全然なびいてくれないんですもの。私は、そんなに魅力がない?ちょっと、自信無くしちゃうなぁ」
「いやいや、魅力の塊ですとも。ホントに、いい女だと思うよ」
「ふふ、ありがと……あ、そうか。そういうことか」
スティアは、なにやら勝手に納得した。
「お互いに、こうやって弁えて付き合えばいい私と、そうじゃないあの子達の差ってことなのかな」
「なんのことやら、さっぱり分からないね」
敵わねぇな、こいつ。
「ん~、その辺りなのかなぁ」
「なにが?」
「さっき言ったこと。だって、別に誰かに手を出してる訳でもないんでしょう?」
とんでもないこと言うな。
「なんていうのかな……あなただけ、目的っていうか、意志が感じられないのよね。あなたが、あの子達と一緒に行く理由が見えないの。だから、不思議だったのよ」
「それは……そうかもな」
やれやれ、女ってのは本当に、見ないでいいトコばっかりよく見てやがる。
「でも、なんとなく分かったわ。要するに、『ほっとけない』のね。お兄ちゃんとしては」
「かもな。うん、それでいいよ」
「やっぱり、そういう言い方をするのね、私には」
「何をおっしゃいますやら。俺は、元々こんなだよ」
「でしょうね。残念。『こんな』じゃない子達に、先に会っちゃったってことか」
こだわるね。
俺は、少し仕返しをしたくなった。
「そう言うスティアも、こんなところに俺と居ていいのかよ」
「どうして?もちろん、構わないわよ」
「アルは、何も言わないのか?」
スティアは、一瞬きょとんとした後、声をあげて笑い出した。
「やだ、そんな風に思ってたの?あり得ないわよ。なんで私が——」
「ああ、分かってるよ、お前とアルが『イイ』仲じゃないなんてことは。あんな朴念仁には、もったいねぇしな」
スティアは、まだ笑い続けている。
「けど、お前にとっての『こんな』じゃない奴は、案外あいつなんじゃねぇのか」
スティアの笑い声は、少しづつ小さくなった。
18.
「あー、おかし……あんまりヘンなこと言うから、なんだか気分が削がれちゃったわ」
「そう、それ。その感じ。俺にもよく分かるよ」
俺は、ちゃんとニヤリと出来たと思う。
そんな俺を見て小さく溜め息を吐くと、スティアは一旦後ろに体重を預けてから、勢い良く立ち上がった。
「分かったわ。退散します。カンダタ一味は、結構強いらしいわよ。気をつけてね」
「ああ、ありが……」
素直にお礼を言おうとした俺の口は、スティアの唇で塞がれた。
う、やべ、やっぱコイツうめぇ。
かなりねっぷりと口の中を弄ってから、ようやく身を離して、スティアはちろりと唇を舐めた。
「もうひとつ、イジワルしちゃおうかな」
「どうぞ。この際もう、なんなりと」
「あなた、今のままじゃ、いつか行き詰るわよ。お兄ちゃん、ってだけじゃね」
スティアは嫣然と微笑んで、小さく手を振って出ていった。
全く、どうにも敵わねぇよ。
俺は、乱暴にベッドに身を投げて、うつ伏せたままジタバタ暴れた。
……あーくそ、なにやってんだ俺は!
あんないい女とひとつ部屋に居て、何もしないで、どうでもいい話をしただけなんて、ホントあり得ねぇよ。ちょっと前の俺なら、割り切ってよろしくやってた筈だろ?なのに、なんで帰しちゃってんの、このバカは?
うわー、惜しいことした。マジで、考えらんねぇ。アホです、アホ。あの躰を、じっくり味わい尽くせたんだぜ?一遍死んだくらいじゃ、どうにもならねぇくらいのアホさ加減だろ、これ。
ひと頻り身悶えて虚しくなった俺は、寝返りを打って仰向けになった。
あ~あ、ホント、なにやってんだろね、俺は。
すげー溜まってるクセに、似合いもしない格好をつけちゃって、まぁ。
やれやれ、こんなに何度も据え膳を食いっぱぐれてきたんだ。とりあえず、その行き詰るってトコまでは、トコトン付き合ってやろうじゃねぇの。
そっから先は、それからのことだ。
どうせ俺が考えたところで、下手な考え休むに似たりらしいからな。
翌朝、俺達を見送ったスティアは、俺が思っていた通りの顔をしていた。
おそらく、向こうも同じだろう。全く、安心するね。
「ほら!行くわよ、ヴァイス」
マグナに耳を引っ張られながら、次第に小さくなり行くスティアに向かって、俺は片目を閉じてみせた。